いつも通りのんびりと旅を続けてる俺たちパーティ6人と1匹。
今訪れてるのはサナという港町だ。
なぜ此処に来ることになったかというと、なんのことはねぇ。
この町まで届け物に来ただけ。つまりいつものおつかいクエストってわけ。
情けねぇけど、金になるんだから文句は言えねぇ。
今回は珍しい前払いでちょっとは懐が温かくなった。
でもまぁ、当然宿に止まる金なんかねぇし、まだ陽も高かったからさっさとこの町を出る予定だったんだ。
ところが、クレイが宿屋の女将にえらく気に入られちまって。
まぁ、おかげで今夜は格安料金で一泊出来ることになった。
あいつのマダムキラーっぷりに感謝しねぇとな。
「ねぇ、早く〜」
掛けられた声にハッとした。
嬉しそうな表情をして手を振ってるのは、我らがパーティの財務担当サマだ。
あ、ちなみに今此処にいるのは俺とパステルだけ。
理由は俺たちが恋人同士だからっつーよりも、ちょうど俺以外に誰もいなかっただけ‥、だろうな。
でなきゃ、パステルが頬も染めずに俺を誘えるわけがねぇし。
って言いきれちまうあたり、恋人同士なのに情けねぇ話だ。
まぁ、俺たちはパーティを組んでるからな。
いつも必ず誰かと一緒だから、二人きりになれることはほとんどないと言ってもいい。
クレイたちにも話してねぇしよ。
なんで話してねぇかっつーと、簡単な話。
コイツが恥ずかしいからと言いやがったからだ。
ったく、なにが恥ずかしいんだ?
こっちは長い間焦らされて焦らされて焦らされて焦らされて、やっっと思いが通じたんだぜ?
ペラペラ言いふらすことじゃねぇとは思うが、この幸せを誰かに伝えてぇって思うのが普通だろ。
パーティの奴らくらいには報告してもいいもんだろ。
本当なら今だって、すれ違う野郎どもに「コイツは俺のもんだ」って言ってやりてぇくらいのに。
もちろん思ったさ。コイツが「このことはパーティのみんなにも黙っていよう」とか言い出したときに。
言いたいことは色々あって、反論だってした。
なんでと思いつつも、あの瞳に見つめられながら「お願い‥」なんて頼まれりゃ、頷くしかねぇだろう?
これは、惚れたもんの弱みってやつだよな。パステルの言葉なら頷いてやりてぇんだ。
だいたいウチの奴らもだな〜24時間365日一緒に暮らしてんだぜ?
空気でわかれよ。俺たちの間に流れる甘い空気を感じ取れ!!
………なんて、無理か。
気が利かねぇ奴らじゃねぇが、恋愛に関しちゃな〜
お世辞にも鋭いとは言えねぇやつばっかだし。つーより、鈍いヤツしかいねぇし。
チビエルフとシロは問題外。キットンは妻帯者だから気づくかもしれねぇが、気づいても無関心だろ。ノルはな〜
普通だと思うが、アイツの性格からして他の人間には言わねぇだろうし。クレイは………絶対無理だろ。
だいたいクレイはいつだって………って、んなことはどうでもいい。
つまりだ、二人きりになれないということは必然的に進展も難しいってわけで。
正直なところ、俺からのはともかく、パステルからの空気にはあまり変化がないというか‥





………なんか考えてて、どんどん悲しくなってきた。
やめよう。















「トラップ?」
「へいへい」
頭の後ろに組んでいた手をほどいて、歩調を早めた。
それにしても、いくら来たことがない町だからって、乗り合い馬車をいくつか乗り継いで、最後は歩いて此処まで来たんだぜ?
なのに寝て起きたら即、買い物がしたいって言うんだから女ってやつは元気だよな〜
まぁ、少しは気持ちがわかる。この町の建物や服を見りゃ一目瞭然。
たぶん海を渡っていろんな異文化が混じったんだろうな。
シルバーリーブやエベリンじゃ見たことがないような物が店先に並んでるし。
「あの店かわいい〜ねぇねぇ、次はあの店に入ってみようよ」
瞳をキラキラさせて少し先に見える店を指差した。
さっきからずっとこんな感じだ。
まるで遊園地に来た幼い子供のようにはしゃいで、見てて飽きない。
つーか物を見るよりコイツを見てるほうがずっと楽しい。
「おい、あんまり先に行くなよ。また迷子になるぞ」
エベリンほど大きな町じゃないから人はそんなに多くないし、入り組んだ道でもない。
しかし迷う要素が欠片もなくてもところ構わず迷子になるのはコイツの得意技だ。
気がつけば姿が見えないなんてことが、今までのクエスト中に何回あったことか。
その度に俺が探しに行くわけだけど。
「大丈夫だよ」
ニコニコ笑顔で余裕有り気にふりかえった。
いったいどこからそんな自信が出てくるんだ?
おめぇ、まさか、あれだけ前科があんのに自分が救いようもねぇほどの方向音痴だって自覚がまだねぇのかよ?!
俺の心に生まれた呆れと非難はすぐにでも飛び出していこうとしたが、表に出ることはなかった。
「だってトラップがいるもん」
笑顔とともに言われた言葉で思考が停止する。
非難も呆れも飛び散って、頭で考えるより先に体が勝手に動いちまった。
ダッと駆けていって(それほど離れてなかったけど)パステルを力一杯抱きしめた。
本当に隙間なくピッタリとくっついて、俺とパステルの距離が0になる。
「ど、どうしたの?」
少し下から聞こえる声は、明らかに驚きをのせていた。でも、答えてやるつもりはなかった。
なんの裏もない直球ストレートは無防備だった俺の心にバッチリ決まっていて。
そんな笑顔つきの不意打ちは反則だろ。
火を点したかのように顔が熱くなってる。
抱きしめる腕にぎゅっと力を込めた。
駄目だ。かわいい。コイツは可愛すぎる!
「トラップ、かわいい」
なんて言いながら、俺の腕の中でまた笑う。
かわいーのはおめぇだっつーの。
「そろそろ帰るぞ」
「えぇ〜あの店でお茶したかったのに」
「駄目だ」
「どうして?」
無防備に見上げてくるその瞳は本当にわかってなくて。
だから、場所も忘れてちょっとだけ理性が揺らいでしまった。
「この先がしたくなったから」
意地悪な笑みを浮かべて顔を離す。
俯いたパステルの顔は赤くて、黙って手を引かれる様はかわいいの一言に尽きて。
















俺はきっと、一生こいつの手を離せないんだと思った。


















タイトルから話を作った珍しい話。いつもなら脱線して別タイトルになるんですが(笑)

2004/12/10





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