「好きだ」 この一言を伝えるのに、かけた時間は計りしれない。 何度も口を開き、伝えようと思う度にまた閉じて。燃えるような想いをずっとこの胸の内に秘めてきた。 簡単に伝えられるほど軽い想いじゃなく、簡単に壊せるほどどうでもいい存在じゃねぇ。 誰にも感じたことのない想い。唯一無二の女。 だからこそ大切で欲しくって、だからこそ散々迷って苦しんで。 ついには耐えられなくなって、知ってほしくて伝えた言葉。 答えに期待なんて持ってなかったから、本当に信じられなかった。 「ありがとう。私も好きだよ」 有頂天だった。 それに気づいたのは、付き合い始めてすぐのこと。 その日はクレイが行けなくなったとかで、代わりに俺とパステルで買い出しに行くことになった。 なんにもない町並みを見ながら肩を並べて歩く。 「うぉ、あの女、スタイルいいな〜」 「まーたそんなこと言って。ほら、行くよ」 それは、特に重要視するほどでもねぇ普通の会話。 俺たちの関係が変わる前から何度となくかわしてるセリフ。それすらも今の俺は流すのに苦労してる。 なぜ妬かない?なぜ平然としてられる? 俺はおめぇの彼氏だろ?おめぇは俺の彼女だろ? 俺たちは恋人同士なんじゃねぇのかよ? 胸の内に渦巻くのは、不満混じりの不安。 本人が目の前にいるのだから聞けばいいことを、口に出せないのは不安になってるからだ。 パステルは簡単に嘘がつけるような女じゃねぇ。だからこそわかりやすく、だからこそ全くわからねぇんだ。 この仲間としか言えない反応の意味と、それの示す答え。 ただ嫉妬深くないだけなんて、そんな言葉じゃ片づけらんねぇ。 想いを告げる前より更に濃くなった闇は、確実に俺を蝕んでいっていて、ちょっとしたことでも爆発しそうになる。 もしかしたら。いや、ほぼ間違いはねぇだろう。 この問いのイコールの先。それが示すところ。 パステルは信じらんねぇくらいお子様な女だ。 きっとこいつは、今まで特別誰かを好きになったことがなかったんだと思う。 だから気づいてねぇんだろう。俺に向けてる感情が恋愛じゃねぇってことに。 家族なんかに向ける親愛の情を、恋愛と勘違いしてるんだってことに。 本当なら告げてやるべきなんだろうな。わかっているなら尚更に。 このまま知らん顔して黙ってんのは卑怯だ。そう思っても。 「トラップ?」 俺のとなりで優しい微笑みを見せる唯一の女。 手放せるか?ずっと望み続けたこの場所を?やっと手に入れられたこの存在を? それが出来るかどうかは、俺自身が一番よくわかってる。 「どうかした?」 「好きだって言ってくれ」 その瞳を見ていられなくて、白い肩に顔を埋めた。俺より細い体にすがりついて、ただただ言葉をねだる。 パステルは、きっとわけがわかんねぇだろう。 脈絡なんかねぇし、この鈍い女に俺の複雑な心中を察するなんて不可能だ。 それでも。こんな俺の態度を訝しみながら、それでもパステルは言ってくれるだろう。 それは、確信に近かった。 「好きだよ」 電気が走ったかのようだった。感じたのは僅かな喜びと深い苦しみ。 好きだなんて、言われれば言われるほど不安になっていく。まるで泉に石を落とすように波紋が広がる。 波立つココロ。ざわざわと。 呼吸を忘れたかのように空気を求めて。息苦しさから逃れたくて、抱きしめる腕に力を込めた。 「好きだよ」 力に答えるように繰り返された甘い囁き。不意に怒鳴り散らしてやりたくなった。 違う!違ぇんだよ!おめぇの好きと俺の好きは!違ぇんだ! そう思いながらどうしても言えない。言ってやれない。 この手を、放してやれない。 放したら俺は…俺はッ! 「好きだ」 パステルは気づかない。 俺の胸に沈むこの重さに。 ただ、願う。 パステルがこのまま気づかずにいてくれるように。 パステルが、俺を愛してくれるようにと。 ど、どうしてウチの二人は両想いなのに幸せじゃないのかしら(滝汗) 2004/12/28 |