ねぇ、答えてよ。 あのときの答えを、まだもらってなんだよ・・・ ある晴れた日の遅くもなく早くもない中途半端な時間。場所はスピラ。ルカ上空の飛空艇内にて。 「今日、これから暇っすか?」 チイの口からこのセリフを聞いたとき、あたしはどんな間抜け顔だったんだろう。 それを考えると、ホント今でも頭が痛いよ。でも、その時のあたしはそんなこと考えてる余裕なんかなかった。 チイの口から出た言葉が信じられなくて、だから思わず聞き返しちゃったよ。 「あのさ〜悪いんだけど、もう一回言ってくれない?」 「だから、できれば今日付き合ってほしいんすよ」 「誰に?」 「リュックに」 他に誰がいるんすか〜とか色々言ってチイは呆れてたけど、そんな言葉なんか聞いてられない。 だって、だってだってだって! これってもしかして‥いや、もしかしなくてもデートのお誘いってやつじゃない? しかも、ユウナじゃなくてあたしに? なんで?って理由より先に嬉しく思っちゃうのは、きっとチイへの想いのせい。 当然言ってないし、言うつもりもない。 …チイの視界にあたしがいないのはわかっているから。 「で?いいっすか?」 「あ、うん。べつにいいけど」 あたしの返事によっしゃ!とか言ってガッツポーズしてる。 それをしたいのはあたしのほうだって。 チイから誘ってもらえるなんて夢にも思ってなかったもん。 チイが嘘や冗談言ったりする人間じゃないことも、そんな必要もないって知ってる。 そんなに深い意味なんてないとも思う。でもとにかくあたしは嬉しくて嬉しくて、笑わないようにするのに必死だった。 変にニマニマしてたら気持ちがバレちゃうかもしれないしね。 だからチイが立ち上がったことに気がついたけど、気にしてなかった。 チイがあたしの手を引いて立ち上がらせられるまでは、まったくこれっぽっちも。 「へ?」 わからなくて変な声を上げたあたしにニコッと笑いかけて、そのままいきなり走り出した。 あたしの手をしっかりと握ったまま、すごいスピードで。 「ちょ、ちょっとぉ!どこ行くのさ〜?」 「いいからいいから。こっちっす」 手を引かれるまま引きずられるように走って、つきあたりのドアを遠慮の欠片もない力で開け放った。 もうちょっと静かに開けられないのかって言いたくなるくらいデッカイ音が響きわたる。 そこにいたのはワッカとルールーの二人だけだった。たぶんみんな操縦室にいるんだと思う。 余程驚いたのか二人とも声もなく、いったい何事かという表情であたしたちを見てる。 まぁ、当たり前だよね〜突然あれだけデッカイ音たてて入ってくればさ〜 「なに?いったいどうしたのよ?」 「悪い、ルールー。俺たち、今日買い物行く約束してたんだ」 な?と、いきなり隣からふられてとりあえず頷いた。ワケわかんなかったけど、そのほうがいいような気がしたから。 「そうだ!ワッカ、暇だろ?せっかくだから一緒に行ってこいよ」 「え?あ、いや、俺はべつに‥」 言い淀んでるワッカは返事に困ってるらしく、頭をかいてあたしたちとルールーを交互に見てる。 主語がない会話だったからなんの話なのかわからないままだったんだけど、無知な策士の思惑はわかった。 「行っておいでよ、ワッカ。きっと楽しいと思うよ」 「そうだなぁ」 迷い人が驚かないで、エースと黒魔術士が驚いたみたいだった。 背中を押したあたしの言葉が最後の砦だったのかもしれない。 ルールーがこぼした小さなため息が見えたような気がした。 「しかたないわね。ほら、行くわよ」 「お、おぅ!じゃ、夕方までには帰るから」 「わかったっす」 「いってらっしゃ〜い」 室内から出ていった二人に笑顔で手を振った。扉が閉まってまず聞くことはひとつ。 「で?どういうことなのかな?」 まぁ、説明されなくてもなんとなくわかるんだけどね。協力してあげた方としては事情を聞いておきたいし。 「ブリッツのファンの子からルカのシアターのペア券をもらったんだ。見せたらルールーが行きたそうだったからさ、楽しんでもらおうかな〜って思って」 「ワッカと一緒に?」 「‥やっぱわざとらしかったっすか?」 「うん、かなりね〜だってルールー、ため息ついてたし。考えもバレバレだったと思うよ」 事情がわからなかったあたしが後押しできたくらいだし。 でも‥、そっか。ルールーたちのためだったんだ。 そうだよね。そうじゃなきゃ、チイがあたしを誘ってくれるなんてありえないもん。 ショックじゃないって言ったら嘘だけど、まぁわかってスッキリしたかも。 「ルールーに後でなにか言われても、あたしは知らないからね〜」 「わかってるって。でもさ、あの二人って結構お似合いじゃん」 悪びれなくチイが笑ったからあたしもつられて笑った。 いろいろ言ってるけど、あたしもあの二人って結構お似合いだと思うよ。 本人たちに言ったら、なにをバカなこと言ってるんだ〜って怒鳴られるだろうから言わないでいるけどさ。 「さてと」 「ちょっと、今度はどこへ連れてく気なのさ?」 未だに手を握られたままだったことに引っ張られてから気づいた。これ以上走りまわるのは嫌だから、太陽色の少年に慌てて質問する。 もう走るのは勘弁してほしいんだけど、まだなんかあんの? 「もう忘れたんすか?さっきルールーたちに言っただろ?買い物行くって」 「それは、覚えてるけどさ〜」 でもそれって、ルールーたちをデートさせるための嘘なんじゃないの? 「昨日、ユウナと話してたじゃん。買い物したいとかさ」 「あ、うん。そうだけど」 その通り。昨日の夜、一番盛り上がっていたのはその話だった。 久しぶりに買い物でもしたいねって言い出したのはユウナのほう。 必要な薬や武器は船内にいるリンから買えちゃうから、わざわざ船から降りる必要はなし。 シンとの戦い前で不謹慎かなと思わなくもなかったけど、買い物するのは楽しいし気分転換にはちょうどいいと思ったからあたしも話に乗った。 話を聞いていたはずのルールーもおっちゃんもなにも言わなかったし。 たぶん、みんなにユウナの緊張が伝わっていたんじゃないかな。 チイのお父さんとユウナは知りあいだって聞いた。 信じられないことだけど、その人が今のシン。 スピラを救うためだけど、倒さなきゃいけない。覚悟を、決めなきゃいけない。 あたしが感じてたのは緊張だけじゃないけど、ユウナがなにも言わないから聞いてない。 ユウナがユウナから話してくれるのを待ってる。そのユウナは疲れからなのか、まだ寝ていた。 「ルールーたちもルカに降りるだろうし、ちょうどいいって思ったんだけど、リュックが嫌なら‥」 「行く!行くよ」 たかが誘わせるだけに手間がかかりすぎですね… 2004/01/29 |