「ねぇ、藤代くん。明日って何の日か知ってる?」 どこか嬉しそうには彼氏である藤代に聞いた。 「明日?明日って5月23日?知らないですけど何かの日なんすか?」 「キャプテ〜ン!」 振り返らなくてもわかる大きな声に、渋沢は苦笑しながら振り返った。 「どうしたんだ?藤代」 「キャプテン、今日って何の日か知ってます?」 「今日?‥さぁ、知らないが‥何か特別な日なのか?」 「それがわからないんすよ。何かの日らしいんですけど」 竹巳に聞いても知らないって言うし‥と言いながら藤代は俯いてしまった。 「でも何かの日なはずなんですよ」 「それだけ必死になってるってことは先輩に関係があるんだろ?」 からかうように笑って言うと、藤代の顔を赤くして頷いた。 昨日の帰り、とつぜんに明日は何の日か知ってるかと聞かれた。 今思えば、はどこか嬉しそうというか期待しているような瞳だったと思う。 しかし、そんなことには気づかなかったし、今日が何の日か知らなかった藤代は素直に知らないと答えた。 「そうしたら先輩の表情が曇っちゃったんですよ」 5月23日。何の日かなんて聞かれても未だわからない。 もちろんの誕生日ではないし、何かの記念日だったかと授業中も考えていたが、やっぱり思い当たる節がない。 「そうか。藤代、先輩のところには行ってみたか?」 というのはの親友で、三上の姉のことだ。 見た目はとても美人だが、意地の悪さ‥もとい、頭のよさはあの弟以上という話である。 「それがぁ‥行ったんですけど、自分で調べろって追い返されちゃったんすよ〜」 藤代の情け無い声に、先輩らしいなと渋沢は心の中で笑った。 「誰か他に知ってそうな人いないっすか?」 「そうだな‥もしかしたら三上なら知ってるかもしれないぞ」 そういうことは俺よりあいつのほうがずっと博学だからなという渋沢に、藤代は思わず呟いてしまった。 「あの三上先輩が教えてくれるかなぁ‥」 でも他に浮かぶ人もいなかったので、藤代は渋沢に礼を言うと、今度は三上を捜し始めた。 「三上センパ〜イ」 遠くから響いてくる後輩の声に、三上は顔をしかめた。 「ったく、うるせえ奴だな。何か用かよ」 「三上先輩、今日って何の日か知ってますか?」 「今日?5月23日か?‥あぁ、知ってるけどそれがどうかしたのか?」 「えっ?教えてくださいよ!何の日なんですか?」 思いがけない三上の言葉に藤代の顔がパァーっと明るくなる。 三上はそんな藤代の嬉しそうな表情を見てニヤリ‥と笑った。藤代にとても嫌な予感が走る。 しかし藤代はすぐに人の悪い笑みを浮かべた。 藤代と三上がそんな話をしていた頃、教室ではとが話していた。 もちろん内容は藤代が必死に考えていた今日のことである。 「、諦めるしかないんじゃない?男の子って基本的にそういうの興味ないんだから藤代が知らなくても仕様がないことだしさ」 私もつい先日まで知らなかったし、だってそうだったでしょ?というに、は納得がいかないような声で確かにそうだけど‥と語尾を濁した。 「そんなに藤代を試したいの?」 の問いには違うよと首を振った。 別に藤代を試したいとかそういうわけじゃない。 藤代が大切にしてくれていることをはちゃんとわかっているし、藤代は人気があるが、藤代をそういう意味で疑ったことは一度だってない。 でも気持ちというのはそう簡単には割り切れないものだ。 くだらないことだと自身も思っているが、は藤代に知っていてほしかった。 例えそれがの望む結果じゃなかったとしてもだ。 その後。には先に帰ってもらい、はいつもどおり藤代の部活が終わって出てくるのを待っていた。 昨日の帰りに話した時、何とか取り繕ったけど、きっと藤代のことだから気にしてくれているだろうとは思っていた。 本当なら休み時間などに昨日言ったことは気にしないでほしいと言うつもりだった。 でも休み時間に中等部へ会いに行ったが、その度に藤代は何処かにいっていて捕まらなかったのだ。 藤代が居なかったのがあちこちに聞き回っていたせいだなんては知る由もないので忙しいんだな程度にしか考えていなかった。 色々と考えていてしばらくは何の疑問も持たずに藤代を待っていたが、だんだんおかしいと思い始めた。 昨日なら‥いや、いつもこんなに遅くない。 別に急かすつもりは全くないが、藤代はさっさと着替えて出てきてくれる。 今日、部活があったのは間違いないことだし。でも話をしたりとかしているのかもしれない。 もう少し待ってみようかと思っていたとき、の姿に気がついた藤代の同室者の笠井が走って寄ってきて藤代はもう帰ったと告げた。 藤代から何も聞いていなかったはどうして?と笠井に聞いたが、笠井はわからないと首を振った。 ただ、かなり急いで帰っていったと教えてくれた。 教えてくれた笠井に礼を言っては独り寮に向かった。 女子寮に戻ったは藤代の携帯にかけてみた。 忙しいなら出ないかもしれないと思いつつ、でもどこか出てくれることを期待して。 わからないほどのコールの後、ピッという音を合図にはゆっくりと手を下ろした。 「‥私、避けられてるのかな?」 夕飯が終わって部屋に戻ってきた途端、窓が叩かれた。 窓の外にいたのはいつもと変わらぬ笑みを浮かべた藤代。 驚いているを退け、さっさと藤代を部屋にあげると、気を利かせたのか、用事があるからと言っては部屋を出ていった。 何かいれるよと言って立ち上がりかけたの腕を掴み、藤代はゴメンと謝った。 「竹巳に聞きました。帰りはゴメンなさい」 「ううん。急いでいたんでしょ?気にしないで」 ちょっと苦笑いを浮かべながらは手を振った。 藤代は安心したように笑って、ゴソゴソと何かを取り出した。 「先輩。これ、受け取って欲しいんです」 差し出されたのは真っ白な封筒。 予想しなかったことに、は目を点にして茫然と封筒をみつめた。 「今日のこと、考えたんだけどどうしてもわからなくて。三上先輩に教えてもらってコンビニに走ってきたんすよ」 そこでは納得した。だから帰りに急いでいってしまったんだと。 有り合わせでゴメンと再び謝る藤代に、はそんなことないよと首を振った。 「あのね、私も藤代くんに受け取って欲しいものがあるの」 は藤代の封筒を受け取り、代わりに鞄の中から淡いピンクの封筒を藤代に渡した。 「「開けてもいい(っすか)?」」 重なった声にお互い笑いあって、藤代はに先に開けてほしいと言った。 封筒の中に入っていたのは一枚の便箋。 開くと中は何も書かれていなくて真っ白だった。 「帰ってきてからいっぱいいっぱい考えたんすけど、俺、馬鹿だからいい言葉浮かんでこなくて。なんていうか‥上手く表せないっていうか」 ガシガシと頭を掻いて、藤代はまっすぐを見た。 「が好き」 口で言えばたったそれだけなんだけどと藤代は照れ臭そうに笑った。 「藤代くんが馬鹿なら私は大馬鹿だよ‥」 そう言って泣き始めてしまったに藤代は困ったように笑って抱きしめた。 耳もとで言葉でしか表せない心を囁いて‥ 「ラブレターの日?」 三上から話を聞いた渋沢はそんな日があるのか?と聞き返した。 「あぁ、あるんだ。付き合ってるのが前提だからカップル専用だけどな。好きな相手に自分の気持ちを書いて相手に送るって告白まがいなやつ」 さすがにその由来とかまでは覚えちゃいないけど、記憶は確かだぜと三上は笑った。 「それで藤代は部活が終わった後、大慌てでコンビニに走ったというわけか」 納得して渋沢が呟いた後、窓を叩く音がした。入ってきたのは部屋を明け渡してきた。 「先輩?どうしたんですか?」 尋かなくてもだいたいの理由はわかっていたが、渋沢は一応聞いた。 「遅くにごめんね。その話は後で」 は笑顔で答えると、渋沢の影にいる三上に向かって視線を送った。 「なんだよ?」 「亮でしょ?藤代に今日のこと教えたの」 ぶすっとした表情。その表情から気にいらないと言っているのがわかるほどだ。 しかし三上は気にした様子もなく謝りもしない。 そんな弟の態度にも慣れた様子で、もそれ以上言わなかった。 「今、部屋に藤代がきてるの。しばらく居させてもらうから」 素っ気無い口調で言うと、渋沢くん、いい?と渋沢のほうに振り返った。 予想通りの理由に、渋沢はもちろんかまわないと答えた。 三上は開いていた雑誌を閉じると、の隣に座った。 「あぁ、そうそう。バカ代からおもしろい話を聞いたんだけど聞きたいか?」 いかにもワザとらしく話をふってきた三上をは怪しんだが、気になったので素直に聞いてみた。 何の話?と訊くに三上は爽やかな笑顔を見せた。 「姉貴が桜上水の水野と付き合ってるって話」 この話の続きはまた次の機会に… メジャーというわけでもないし、記憶も曖昧なので間違っているかと思ったんですが本当にあったようです。 そして5月23日=LOVE LETTERの由来はこいぶみ(523)かららしいです。まんまですけど 由来は朔サンに教えていただきました。サンクスですvv 2002/05/27 |