いつか この日が訪れるんじゃないかとは思っていた 当たらないで欲しかった予感 運命の日が今日だったなんて 茫然と座り込んでいる俺の後ろに、何処からともなく黒衣の死神がやってきた。 「幸せすぎたんですね、あなたは。毎日がそうで、変わらない明日がくると信じていた。以前は違っていたでしょう?」 たしかに昔は今この瞬間、それしかなかった。 だから常に言葉として伝えていた。
今は‥銀次のとなりは‥ 「伝えたいと思ったとき伝えなきゃいけませんでしたね。今さら後悔しても遅いことですけど」 クスクスと、この男独特の笑い方が闇に響く。 怒りも憤りもない。 ただ自分の無力さに哭きたくなっているだけ。 「さぁ、どうするんですか?このままずっとここにいるんですか?」 銀次がいないのに未来なんて考えてもしかたない。 そばにいてほしい人を殺してまで生きてる理由なんて‥ 「ま、私には関係ないことですけどね」 かけられた手を払うこともせず、重なった唇を拒絶することも、侵入してきた舌を噛みきってやることもできない。 零れる唾液をそのままに、組み敷かれても抵抗もせず、ただ見上げるしか。 「暴れもしないで、私に彼を重ねる気ですか?」 俺のなかに答えはなく、後ろにある空を見上げていた。 はだけた胸もとを通る空気の冷たさすら遠い出来事のよう。 すべっていく唇の先も、広げられた脚の意味も今はどうでもいい。
ただ。ただ、俺は‥ 「私は、貴方はもっと強い人間なのかと思っていたんですが、どうやら違ったようですね」 俺も自分はもっと強い人間なのだと思っていた。 今までがそうであったようなたった独りでも生きていけると。 また誰かを失くしても、なにも変わらずに生きていけると。 「私が哭かせてあげますよ、美堂くん」 上気した頬に伝う汗と熱に浮される意識。 考えることをすべて放棄して、俺は静かに瞳を伏せた。 はじめは鏡蛮だったんですが、やっぱ無理だったので屍蛮に変更。 2003/08/04 |