辺りが夜の帳に包まれたころ、小さな叫びが耳に届いて目が覚めた。 闇に認められるのは、たった一人の影。 「‥‥‥‥‥‥くっ‥‥」 なにかから逃げるように部屋を出ていく彼を、俺は引き留めたりしなかった。 「…………………」 たまに訪れるこの瞬間。きっと重い悪夢に捕われているんだろう。 その内容を聞いたことはないし、むしろ気づかないふりを徹してる。 理由は簡単。そんなことは大したことじゃない。 「そろそろかな‥」 「…蛮ちゃん」 「!!銀次、お前、起きてたのか?」 「うん。起きたら蛮ちゃんがいないから捜しに行こうかと思ってた」 「そっか。悪かったな、心配かけちまって」 「ううん、べつにいいよ。蛮ちゃん、眠れなかったの?」 「まぁな」 そのままベッドに戻ろうとする蛮ちゃんに、一人で寝るのは寒いからと俺のベッドへと誘った。 大した抵抗もなく蛮ちゃんが腕の中に収まる。 「ねぇ、蛮ちゃん」 「なんだ?」 「蛮ちゃんは俺を捨てたりしないよね?」 「銀次?」 「俺には蛮ちゃんしかいないんだ。蛮ちゃんに捨てられちゃったら俺…」 続くはずの言葉を遮られて、柔らかい唇が重なる。 近くに感じる吐息と闇に負けない優しい笑顔。 「心配すんな。俺にも銀次しかいねぇからよ」 「ホントに?俺しかいない?」 「あぁ、ホントに。銀次しかいねぇよ」 「蛮ちゃん…」 綺麗な魔女に優しい嘘をつかせて、俺はずっと騙されたフリを続けてる。 あーあ、無理しちゃって。べつにいいのにさ。 だってまだ完成していないんだから。 クスクス‥ やっと手にいれたこの綺麗な魔女を手放す気なんか更々ない。 この腕の中に留めておけるならいくらだって騙されててあげるよ。 「蛮ちゃん、愛してる」 「俺も愛してるぜ」 ほら、今日もまた一つ枷が増える… やっぱ熱があるときは普段と思考が変わるらしいです。こんな銀次くん、いつもなら書けないと思うから。 2003/01/07 |