問1.手持ちのテキストを参照し、答えを導き出しなさい。
「なんであんなに嬉しそうなんだ?」
さっきからニコニコ笑顔でい続ける銀次を不審に思って、ついに波児が口を開いた。
「おい、蛮。なにかあったのか?」
「さぁな。アイツ、朝からずっとあーなんだよ」
大方、夢見でも良かったんじゃねぇの?と言った蛮。
興味なさげに笑いもせず、銀次のほうを見もしない。さっきまでなんともなかったのに。
いつもの蛮らしくない、まるで拗ねている子どものようだ。
なにか気に入らないらしいが、こういう蛮には知らん顔をしていたほうが賢明なことを波児はちゃんとわかっている。
「さてと」
話を打ち切り、煙草を揉み消すと蛮は立ち上がった。
そしてやっぱり笑顔でいる銀次に、いつもどおり声をかけた。
「銀次、そろそろ行くぞ」
「あ、うん。ちょっ‥蛮ちゃん待ってよ〜」
「お前ら、奪還料入ったら今度こそ店のツケ払えよ」
「わーってるって」
「いってきまーす」
波児の声を適当にあしらって二人はHONKY TONKを出た。
今日のターゲットを待ち伏せるところは、来慣れた場所。
温かい陽射しと、あふれる子どもの笑い声、途切れない噴水。
そして、忙しく排気ガスをはき出す鉄の塊の通行路。
いつもと同じ、なにも変わらないお昼の公園は、つまらないくらいのどかで和やか。
思わず笑みがこぼれてしまいそうなくらいの平和的時間。
これでコンビニの安い弁当でなかったらもっと良かったのだけど、それは贅沢というものだ。
「あのね」
美味しそうにご飯を頬張っていた銀次が空を見上げて言った。
相変わらず嬉しそうに笑っていて、空気がゆっくりと流れてる。
「俺ね、今日、龍春の夢見たんだ。一緒に遊んでる夢」
「龍春?」
聞き返したその名前には聞き覚えがあった。銀次から前に話してくれた。
無限城で銀次が、一番に守りたかった。
今は…今は、もういない女の子。
「…それで?」
「俺さ、小さい頃からずっと無限城にいたじゃない。雷帝になる前なんだけど」
「あぁ」
「その時ね、毎日が地獄みたいだって思ってた。いつもいつも中層の奴らから逃げ回って、当たり前みたいに人がいっぱい死んでって、仲間がどんどんいなくなっていって、だから気づかなかったんだ」
「気づかなかった?」
「うん。それでも幸せだったこと。地獄みたいだって思っていても、龍春やシュウに会えたことは幸せだって感じてたこと」
食べ終わった銀次は簡単に片付けるとごみ箱に放った。
軽い音をたててゴミ箱に吸い込まれたビニール袋。
蛮の手は止まったまま動けない。いつの間にか、朝からのイライラも消えていた。
それより、今この胸を占めているもの。
もしかしたら…
喉から出かけた言葉より先に銀次は言った。
「今だって生活は楽じゃないし、仕事のときに死にそうになることだってあるけど、でも‥‥」
「幸せか?」
「うん、すっごく。当然じゃない。蛮ちゃんのそばにいられるし。俺、今すっごく幸せだよ」
「そっか」
銀次の表情を見て、それしか言えなかった。
笑ってしまう。情けないくらいカッコ悪い自分。
「ねぇ、蛮ちゃんはどう?幸せ?」
銀次は俺の心中にも弱さにも気づかないままで。
一人では抱えきれない難問へ、俺にはない強さを持ってちゃんと向かってきた。
感じとれてしまう。
どこか嬉しそうで期待にワクワクとした。
そう、まるでクリスマスにプレゼントを待っている子どものような瞳。
「んなわけねーだろ。こんな借金だらけの貧乏生活でよ」
いつもの表情で、いつものように愛用の煙草に手がのびた。
止まっていたものは、しっかりと動き出していた。自分らしさも奪り還せていた。
「…来た!銀次、行くぜ」
つけたばかりの煙草を消して、確認したターゲットの姿を追う。
草むらに身を潜めて、気づいた。何事にもストレートな銀次が珍しく聞きずらそうな顔をしていることに。
「銀次」
微笑んで、チョイチョイと手招きして。近寄ってきた金色の頭に寄り添って提出前の最後の見直し。
仕事の最中だってことすら忘れて、瞳を見てちゃんと訂正してやった。
「お前と同じだよ」
幸せは目に見えるものじゃない。
恵まれていると言われても幸せじゃない人はたくさんいる。
幸せは他人にわかるものじゃない。
かわいそうにと言われても幸せな人はたくさんいる。
では、俺は?俺たちはどっちなのか?
聞くまでもないことだ。
変化のない一日一日の俺たちが、偽りなくなによりも正確なその答えを示す。
「行こう!蛮ちゃん」
答えは此処にある。
なにか捧げようと思ったら暗いものばかりで…(汗)
2003/07/04
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