その日の朝、蛮は爽やかさとは程遠い朝を迎えた。
もちろん原因は銀次。
と言ってもそれは決してヤったとか、そういうことではなくその言動だ。
昨日の夜。風呂から上がってリビングに戻ってみたら、銀次が普段は見ていないメロドラマを見ていた。
程なくしてCMになり、蛮を見ると(このとき既に嫌な予感がしていたのだが)悪意のないその笑顔で一言ぬかしやがったのだ。
「蛮ちゃん、蛮ちゃん。おでこにチューして♥」
たまに銀次はこちらが言ってほしくないことを平気で言ったりする。
それに蛮が頷くことは当然少なくて、いつもなら銀次のほうが折れてそれで終わりなのだが、なぜか昨日に限っては銀次がねばり強かった。
結局最後は喧嘩みたいなかたちになり、互いにそっぽを向いて寝たのだ。
そりゃ、銀次にしてみれば自分たちはキスもキス以上もしてしまっているのだから今さらなんだろう。
だが、蛮からしてみればキスもキス以上も慣れるなどということから程遠いことなのだ。
だいたい真正面からキスしてくれなどと(たとえおでこでも)頼まれてハイと自分が頷けるだろうか。
答えはまずNOだ。
「それくらい、お前だってわかってんだろ?」
寝ている相手に聞いても答えは返ってこないのはわかってる。それでも聞かずにはいられない。
なかなか態度に表さないこと。なかなか言葉に出さないこと。
好きだからとか嫌いだからとか、そういうのじゃない。
気持ちを表現することがうまくできなくて。そのことを、自分自身を歯がゆく思うこともある。
ストレートに言える銀次を羨ましく感じたことも。
でも、どうしようもない。これが自分だから。
銀次が求めることにできるだけ答えてやりたいと思う。叶えてやりたいと。
今はまだ難しいけれど。
「あ‥」
柔らかく短いその髪を撫でていて気がついた。
昨日思わず殴ってしまったところが少し赤くなっていることに。
頬にうっすらと涙のあとが残っていることに。
「銀次‥」
自分とは違う、明るい太陽を思わせる金色の髪。
その額へ謝罪の言葉をのせて。
小さく優しく。昨日彼が望んだとおりに。
自分からしておいて照れるなんて馬鹿らしいけど、頬に熱が集まってしまっている。
情けないと思わずため息をついて、グシャグシャと頭を掻くと、あくびが出た。
「………寝なおすか」
また布団を被って今度は彼のとなりへ。
いつものようにそのぬくもりを感じながら。
今、この瞬間すら夢にしてしまおう。
この話。ある方に捧げるつもりで書いたので、相互リンクしてくださっている方で気に入ってくださった方はお持ち帰りOKです
2002/12/24
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