婚約は解消になった。
幸せになってほしいんだって仲謀様が言ってくれた。
だからアタシも意地はるのやめようって思うの。
甘寧のこと、甘寧の思い、真剣に考えようって。
でもね？
でもさー
「ー・・・ってぇ！今、バキッて言ったぞ？」
手が出ちゃうのは、もう半分条件反射なんだよね。
「甘寧、アンタさ、アタシのどこがいいの？」
ここはアタシの自室。アタシの自室だけど、甘寧もいる。
アンタの仕事は？と聞いたら、終わったって言ってたけど、本当かな？
部屋に戻ってきた女官は周瑜様からの諸用があるって言って出ていったきり戻ってこない。
変な気を使ってるんじゃないかって勘ぐるアタシが間違ってるのかしら？
まぁ、いい。甘寧は向かいの椅子に座ってアタシを見つめてる。
邪魔するでもなく、かといって手伝うわけでもない。
ただじーっと人のこと見て、何が楽しいんだか。
追い出すことを諦めて無視して仕事をしていたんだけど、ふと思って聞いてみた。
そんな、おまえ何言ってんだ？って顔で見つめられると気まずい。
「いや、ちょっと気になったから」
何しろ、この男。戦場で刃を合わせたら、開口一番にアタシが好きだとぬかしやがったのだ。
普通斬りかかりながら言う言葉か？そんな口説き方、聞いたことないわ。
「へぇ？」
「なによ？」
なによ！？その笑みは。どういう意味？
ニヤニヤしてる甘寧に不気味さと少し苛つきを感じつつ。
まぁ、いいや。それよりアタシが聞きたいこと。
「やっぱり顔ってこと？」
自分から聞いておいてなんだけど、妙に納得してしまった。
っていうか、それしかないような気がする。
だって、コイツはアタシの名前すら知らなかったし、アタシも甘寧のことは知らなかった。あの戦場が初めての出会いだったはず。
でもさ、自分で言うのもなんだけど、アタシって容姿は普通。
顔は・・・悪くはないと思うけど良くもない。
比べると悲しいけど、アタシより周瑜様や陸遜のほうが美人だよなと思う。
大喬様や小喬様みたいなヒラヒラした女性っぽい服は似合わないから着ない。背もちっさいし、尚香様や練師みたいに胸も大きくないし。
明らかに軍内の女性の中で見劣りするアタシ。
・・・うううう、考えてて悲しくなってきた。
「何もいってねぇのに、なんでどんどん暗くなってくんだよ？」
「いや、自分の悲しい現実に打ちのめされてるのよ」
だいたい、アタシが普通なんであって、周りに美形と美人が多すぎるのよ。
当たり前、当たり前なんだけどさー！
周瑜様や陸遜は男性なのに、それでも負けてると感じてしまうのは女としては悲しすぎる。
でも、どう贔屓目でみてもお二人のほうが美人。
うううう・・・
「違えんだよ」
「え？」
ボソリと甘寧が何か言ったけど、アタシは聞き逃してしまった。
あれ？なんか怒ってる感じがするんだけど、気のせい？
「あ、ごめん。もう一度言って？」
「顔じゃねえよ。もちろん顔も好きだけどな」
そういうと、甘寧は椅子から立ち上がった。
「あの戦場にはいろんな奴がいたけどよ、誰よりおめぇが輝いてた。おめぇしか見えなかった。ただおめぇが欲しいって思った」
アタシの脇に立った甘寧は、スッと膝をついた。
そのままアタシの手を取ると、手の甲へ唇を落とす。
「俺は孫権様じゃなく呉じゃなくおめぇに忠誠を誓う。に俺のすべてをやる。だから、おめぇをくれよ」
「か、甘寧・・・」
「おめぇだけが欲しいんだ。なぁ、俺の女になれよ」
心臓の音が大きくなる。見上げてくる甘寧の瞳に吸い込まれて、目が離せない。
「俺のものになれよ」
忠誠の誓いと真摯な言葉。
一気に緊張感が高まって、心臓の音がうるさい。
喉の奥が乾いてる。ごくりと唾を飲み込んだ。
アタシも伝えなきゃいけないってわかったから正直に答えた。
「アタシ、甘寧が想ってくれてるほど、まだ想ってないよ」
仲謀様から婚約解消の話を正式にもらってからいっぱい考えた。
それで出た答え。
甘寧のこと、好きだと思う。
思うけど。でも。
なんだか申し訳なかった。甘寧から想われてるってわかるから。
「ばーか」
甘寧は鼻で笑うと立ち上がって手を引き上げた。アタシもその手に促されるまま椅子から立ち上がった。
「なーに難しく考えてんだ？答えは一つしかねえんだろ？」
「ひとつ？」
「そうだろうが。、俺のこと好きか？」
優しい瞳でアタシの答えを待ってる。
あー、そっか。
そうだね。そうだよね。
アタシはバカだ。
「うん。好きだよ」
何度も抱きしめられたけど、初めてアタシから甘寧を抱きしめた。
バカばっかり？
だって、しかたない。
バカだから愛しちゃうんだ。
バカばっかりでしたが、くっつきました。
2019/10/4