キョロキョロと辺りを見回しながら俺はを探していた。
部屋に行ったらの姿がなかったからだ。
そこら辺にいた女官を捕まえて聞いたら「様は朝稽古の日だからまだ来ていないのではないか」と言われたが、稽古場を見てもの姿はなかった。
ったく。あいつは、いったいどこにいんだよ?
廊下の角を曲がると、見たことがある奴が向こうから歩いてくるのに気づいた。
聞いてみっか。
「よぉ、知らねえか?」
挨拶をしたが、野郎からの返事はなかった。代わりに睨みつけられる。
なんだよ、朝っぱらから喧嘩腰な野郎だな。
「を探してんのか?」
「なんだよ?知ってんのか?」
足を止めて聞こうとふりかえると、胸ぐらを叩かれた。
「あんまりに気安くしてんなよ」
「俺にください」
そう、孫権様に最初に告げたのは可能性を感じたからだった。 戦場で初めてに会った時、アイツは俺の好きだという言葉を断らなかった。
本気で取られなかったというのもあるかもしれねえが、男がいるならそう答えるだろうし、愛する許嫁がいれば即答でそれを答えただろう。
それを聞いて俺が諦めたかどうかはともかく、としてだ。
でも、アイツはそのことについて何も言わなかった。だから男はいねえと判断した。
仲間も恩義も義侠も置いて呉にきた。
何も知らなくても、その価値がにあると俺の本能が告げていた。
俺の判断は間違ってなかった。孫権様がを見る目は家族の目だった。
だから確認したくて言った。
「俺、に惚れちまったんです」
俺の言葉に反応してたのは、許嫁である孫権様じゃなかった。
その脇に立ってた二人。
片方は若き軍師。もう一人はこの男。
「なんだよ、凌統」
「うっとうしーんだよ、アンタ」
同じ軍内の人間なのに、苛立ちも殺気も隠そうとしない。
俺が目障りで仕方ねえんだろうな。
「知らねーな」
テメーの都合なんざ、俺には関係ねぇ話。
「俺はに惚れてる。だから想いを伝える。そんだけだ」
凌統がどれほどを想おうと伝えねーのはテメーの勝手だろ。
見ていてぇんなら、ずっと見ておきゃあいい。
ただ俺は待たねぇし遠慮もしねえ。それだけだ。
「てめぇ」
「あん?なんだよ?やんのか?」
「ちょっと!なにしてんの?」
その瞬間を狙ったかのように、向こうからと陸遜が現れて、こっちに向かって駆けてきた。
「こら甘寧、凌統さんに何してんのよ?」
キッとに睨み上げられ詰め寄られ、俺はすかさず両手を上げた。
おいおい。
「俺は何もしてねえよ。喧嘩ふっかけてきたのはあっちだぜ」
とんだ濡れ衣だ。俺は何もしちゃいない。
まぁ、アイツからしたら一番はじめに喧嘩を売ったのは俺だろうけどな。
疑いの眼差しを外さないに、陸遜が苦笑いをしている。の後ろに立っていた凌統はの頭を撫でた。
「凌統さん?」
「あんまりこのバカがうるさかったら俺がシめておいてやるから言いなよ」
「ありがとうございます、凌統さん」
頭なでなでってガキかよ、てめーは。んなことやってっから意識されねーんだよ、ばーか。
心の中で毒づいたが、もちろんむかついていた。
そりゃ、俺もちょっと触りてえしよ。
「僕も手を貸しますからね」
「はーい陸遜。さっきは手伝ってくれてありがとうね。凌統さん、これから時間あります?アタシ、これから陸遜と朝稽古しようと思ってて。よかったら一緒にやりません?」
「おーけぃ、付き合うよ」
じゃあ、まず剣からやりましょうとかいいながら、さっさと歩きだす。
なんだよ、俺はずっとお前を探してたっつうのに、俺には一言もなしか?
俺のことを気にも留めたふうがないの様子に悲しくなる。
その背中を見つめていたら、歩いていたの足が止まった。
「甘寧、何してんの?早く来なさいよ?」
当たり前のような顔をして、ふりかえって待ってる。
お前が行くところへ俺も行く。それが当然であるかのように。
今日は負けないからと見せるその笑顔がどれだけ俺を喜ばせてるか、きっとは知らない。
「」
奴らからの殺気を感じながら、俺は嬉しさを伝えたくてに抱きついた。
裏で男同士の熾烈な争いがあったら楽しそうだなぁ、なんて思って。何気に逆ハーだったのにヒロインは露ほども気づいてません。
甘寧は甘寧でちゃんと考えてましたねー
陸遜視点もがんばろうか。でも悲恋だしな。
2019/10/9