|
あぁ やっぱり無理なんだって感じた 今さらだけど 俺じゃ駄目なんだって再確認できた でも そんなことは始めからわかっていたことなんだから だからこれ以上 事実として突きつけないで欲しいんだ 「なにやってんだよ？」 ドアが閉まった音に反応して声のぬしのほうを見た。 「見てわからない？睡眠とってんの」 俺の答えに三上は何も言わず、当たり前のように隣に寝ころんだ。 へぇ、珍しい。この頃サボってなかったのに。 「お前もサボり？」 寝にはいろうとしてる三上に声をかけると不機嫌そうに俺を見た。 「見てわかんねえ？」 「よく渋沢が許してくれたじゃん」 サボるなってよく言われてるのに。俺もそうだけど。 「授業中に寝ても、ここで寝ても大して変わらねえから。わかったら邪魔すんなよ」 はいはいと返事を返して内ポケットを探った。先日買ったばかりの煙草。 三上も昔吸っていたけど今は吸ってないらしい。恋人のために禁煙中？ 別に美味いわけじゃないし、俺ら一応スポーツ選手だし。なにより身体にもよくないしね。 わかっててもやめられるモンじゃないけど。 「俺にもくれよ」 見ると寝たはずの三上が俺のほうに手を出している。 寝るんじゃなかったの？と聞きつつも三上に煙草を差し出した。 「俺の勝手」 ま、確かにそうだけどね。 「でも藤代って煙草の匂い、嫌いじゃなかったっけ？」 火をつけようとしてた手を止めて三上が黙った。 当たりかぁ。俺の記憶も大したモンってことだね。 もったいないと頭のどこかで思いながら点けたばかりの煙草を揉み消し、三上の顔を覗き込む。 「藤代と喧嘩でもした？」 「うるせぇ‥」 ぷいっとそっぽを向く姿はまるで子供みたい。 零れそうになる笑みを殺して三上が咥えている火がついていない煙草を取った。 「なにすんだよ」 「藤代に嫌われたくないでしょ？」 「関係ねえよ。あんなヤツ」 ホント、子供みたいで可愛いなぁ。ちょっとだけ意地悪しちゃおうかな。 「三上」 名前を呼んでこちらを向いた瞬間を狙ってワイシャツを思いっきり引っ張った。 体勢を崩した三上を引き寄せて自分の唇を重ねる。 閉じようとする前に舌を滑り込ませてそのまま押し倒した。 三上の肩が小刻みに震えてる。 相変わらず慣れないんだ。 藤代が遠慮なんかするはずないからそれ相応にキスぐらいしてるだろうに。 「やっ‥なんでッ？」 抵抗になってない抵抗をする三上に笑ってから耳もとで囁いてやった。 「三上があんまり可愛いから久々に喰べたくなっちゃった」 半分嘘で半分本当。喰べたいと思ったのは事実だし。 喰べるといってももちろん摘む程度にね。 三上が好きだからじゃない。いつものこと。ただの気まぐれ。 「嘘つきっ‥」 だから三上の言葉は聞こえないフリをした。 あの時と変わらない白い肌。 同じようにサッカーをやってるのに何でこんなに違うのかと思ってしまう。 こんなに白いとすごく穢したい衝動にかられるけど、さすがに痕つけるのはマズイから這わせるだけ。 たぶんわかってる。わかってるんだ。俺は‥ 「あッ‥中西っ‥！」 たった一言、三上が発した言葉。 でも俺の手を止めるには十分すぎる一言。 「中西‥？」 とつぜん手を止めた俺を不審がるように三上は俺を呼んだ。 「もうすぐ授業終わるよ。誰かきたらマズイんじゃない？」 「中西待って‥」 どこか頼りなさげな三上の声が後ろからかかったけど、俺は振り切るようにドアを閉めた。 「危ない危ない」 もう少しで命令違反になるところだった。 しばらく屋上に行くのやめようかな。もし三上と会ったら絶対気まずいし。 今日の放課後。部活で顔を合わせるけど三上は何も言わないだろうな。 なんてあれこれ考えながら階段を下りていたら見慣れた顔が見えた。 「あれ？中西センパイ」 「藤代、お前なにやってんの？」 「なにって、キャプテンに聞いて屋上に行くところっす。三上先輩いました？」 中西センパイ、屋上でサボってたんでしょとわかったように聞く藤代を軽く小突いた。 「俺はサボり魔じゃないって。三上ならいたよ。まだ寝てるんじゃない？」 あ、また嘘言ってる。俺って嘘つきじゃなかったはずなんだけど‥ま、いいか。 「中西センパイ」 じゃあなと言って歩き出したら藤代にすぐに呼び止められた。 返事をするのは面倒で俺は何も言わずにふり返った。 「俺、返す気ありませんから」 主語がないけど何のことなのかわかる。笑って言ってるけどマジだってことも。 殺気みたいなものまで感じるしね。 「俺も返してもらう気なんかないよ」 俺も藤代に倣ってにっこり笑って答えたけど、きっと藤代には見えなかった。 だって俺、背を向けて歩き出しちゃってたし。 藤代は俺が三上を取るとでも思ったのかな？ 確かに意地悪はしたけどさ、そんなワケないのにね だって俺はただ、女王様からの命令を忠実に守るしかないんだから もとは渋三前提の藤三をだったんですが、一個も書いていないという理由により変更。 2002/05/04 |