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ありがとう。
そんな言葉じゃ言いつくせないけど
パラパラと読んでいた本のページが風でめくれていく。
はさんでいた栞は下に落ちてしまったけれど気にならない。
「志保」
「なに?」
呼んでみたけど志保はチラッとこちらを見てパソコンへ目を戻してしまった。
カタカタという音は止まらない。相変わらずキーボードから離れない指先。
その手を止めさせるために、その背中をイスごと後ろから抱きしめた。
「急にどうしたの?」
「いや、なんでもねぇけど」
組織のやつらはいなくなって、体も元に戻って、隣にはお前が居て。
なんて、幸せなんだろう。
柔らかいその体を抱きしめて顔をうずめながら、改めて感じる。
腕の中に彼女がいることを本当に幸せだと思う。
「探偵さんは甘えん坊なのかしら?」
茶化した声が降ってきて、キーボードをたたく音はもう聞こえなくなっていた。
答えの代わりに抱きしめるその腕に力を込めた。
3日前からずっとやってる仕事。
ちょっと急ぎらしいってことは知ってる。
でも、今は俺の相手をして。
言いたいことが通じたのか、志保は肩の力を抜いて、怒らず任せてくれていた。
仕事の邪魔してるってのはわかってるけど、離れる気にならなかった。
「そうだって言ったら甘やかしてくれんのかよ?」
チラッと見ればそこには大人の女の顔。
小学生だった頃は感じなかった、僅かな差。
たった一つ。されど一つ。
なんだか悔しい。
そう思うときもある。
でも今日は気にしない。今日は甘えたいから。
「あなたが望むならね」
「じゃあ、まずキスしてほしい」
返事の代わりに志保は俺のほうへ向きなおってくれた。
優しく頬に添えられた志保の手に引き寄せられていく。
促されるまま、目を閉じた。
柔らかくて温かい唇の感触。
チュと小さなリップ音が響く。
「どうかしら?」
そういうと、志保は小首を傾げながら俺を見て微笑んだ。
その微笑みにトクンと心臓が跳ねて、まるで花のように世界が開いていく。
俺が好きだと伝えてくれるその表情。
たまんねぇよ。
幸せで。
胸の内に広がるこの幸福を伝えたいのに、いい言葉は出てこない。
「おめぇ、綺麗だよな」
「褒めてもなにも出ないわよ」
褒め言葉もかわす。そんな余裕を崩してやりたくなって。
本格的に俺だけを見てもらうために、今度は俺から熱が灯るキスを贈った。
ありがとう。
僕を想ってくれて。
ありがとう。
きみが好きです。
頑張ってみようと思って初新志に挑戦。新志になると形勢逆転?まぁ、どっちも素直に甘え甘やかすので甘々です。
蘭ちゃんじゃ絶っっ対こうならないんだよね・・・
2019/10/14
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