あなたは太陽。あたたかな光を私に届けてくれる。
タタタと足早に近づいてくる足音が響いてくる。聞きなれたその足音に振り返らずとも誰なのかわかる。
わが主君、呂布殿のご息女である様だ。
「様」
「張遼!」
ぶつかるように腕の中へ飛び込んできた様を抱きとめた。
「どうされましたか?そんなにお急ぎで」
肩で息をする彼女に問いかけると、手を広げて待ってほしいと意思表示をされた。
荒くなってしまった息を深呼吸で落ち着けると、大きな瞳で見つめられる。
「おはよう!!」
勢いよく頭を下げられ、上げるととびっきりの笑顔を見せてくれた。
自然と私も笑顔になって、ご挨拶を返す。
「おはようございます、様。いかがされたのです?」
「特に御用があったわけじゃないの。張遼の姿が見えたからご挨拶したかっただけなの」
呼び止めてごめんなさいと謝ると、額ににじむ汗をぬぐわれた。
「ありがとうございます。しかし、あまり走って転ばれたら大変です。お気をつけください」
「だいじょーぶ。転んでもあたし、泣かないもん」
この前転んだけど泣かなかったと自慢げに話してくれる様に、苦笑いがこぼれてしまう。
「もし御身に何かあれば、お父上が心配されます。ご自重ください」
「張遼も心配してくれる?」
「もちろんです」
「わかった。気をつけるね。ね、張遼はこれからどこへ行くところなの?」
「お父上と鍛錬のお約束がありまして、鍛錬場へこれより向かうところでございます」
「あたしも一緒に見に行ってもいいかな?」
「様がよろしければぜひ。一緒に参りましょう」
「行こう」
当然のように様から差し出された手のひら。柔らかく皇かで傷もない。
「はい、張遼」
その小さな温かさに、己の手のひらを重ねる。
包み込むのは己のほうであるのに、その温かさに包まれている。
「この前行った市は楽しかった。またこないかな?あのポンポンって投げるやつ、また見たいな」
「お気に召したようでようございました。あの時は特別なものが来ておりましたから、しばらくは来ないでしょう」
「ちぇー・・・むぅ。・・・また来たら一緒に行こうね?」
「お供させていただきます」
「約束したの忘れちゃだめだからね」
「様との約を忘れるわけがありません」
話しながら歩いているうちに鍛錬場が見えてきた。
疎らに居る兵士たちの中、佇むはわが主君。
ひときわ大きなその姿は凛々しく、遠めに見ても異彩を放っている。
「あ、父上だ」
「様は、お父上が大好きなのですな」
「うん!」
えへへと少し照れながらも、満足そうに微笑んで、本当に幸せそうにお答えくださった。
「張遼。あのね、好きだよ」
「様?」
「父上も好きなんだけど、あたしは張遼も好きだからね」
「ありがとうございます、私もです」
「――――、張遼」
「父上!」
私の手を離して、うれしそうに目を輝かせ、呂布殿へ向かってかけていく。
その背中を見つめる。
「・・・ありがとう、ございます」
無垢に見つめられるその瞳と向けていただける愛情にうれしさを覚えながら、今日も様の背中をおいかけた。
当初はごくせんのうちクミ。その後、呂布夢で書いていたんですが、長くなりすぎてしまい、シリーズにしようと思ったので別話で書き直しました。
こういうヒロインだと白羽の矢が当たってしまう司馬懿。
でも司馬懿は『うさぎ』で書いてしまったので誰にしようか迷いに迷って張遼に落ち着きました。珍しい年の差ヒロイン。
2020/2/12