本気で言ったわけじゃなかったの。
出会えた奇跡に胡坐をかいて、幸せを当たり前だと思っていた罰が当たったのね。
突然だった。
いつもと変わらない日々。起伏もないそれを満喫していたのに突然起きたトリップ。
生きてきた世界が違う。もちろん生まれた場所も考え方も。
でも出会えた。話ができた。
そして、あなたに惹かれた。
あの日、忘れもしないあのごく普通だったあの日。
大した理由じゃなかった。
仕事の忙しさや鍛錬が優先されていて話せる時間が少なかった。
ちょっとこっちを向いてほしくて、なんでもいいから少し話がしたかった。
それだけだったの。
でも、あなたは疲れていたんだよね。
わかっていた。
わかっていたの。
でもね、少しだけ、甘えたかったのよ。
「出ていけ!」
怒ったあなたの声が響く。
言い分は理解は出来てもちょっとした意地もあって、私は引けなかった。
「いいわよ!」
捨て台詞を残して扉をあけ放ち、彼の部屋を飛び出した。
その時は追ってきてほしいなんて思ってなかった。
顔を見たくないって思ってた。
初めてであった草原を目指して走っていた。
夕闇はまだ迫っていなくて、夕暮れの明るさが綺麗で、誰もいないところで思いっきり文句を言ってやりたかった。
ただそれだけだったのに。
着いた途端、光り出した自分の指先が、混乱と絶望を伝えてきた。
「うそ!やだっ・・・」
やだやだやだ。
まだ帰りたくない!!!
・・・馬鹿だ!私!
気がつけばいつもの部屋にいつもの香り。
私の部屋。
戻ってきたんだって嫌でもわかった。
「なんでっ・・・」
最後まで言い切れずに膝から崩れた。
どうしたらいいかなんてわからなかった。そもそも一度目がなぜ行けたのかわからなかった。
何度も思い返した。
行けた日にやったこと。
何度もやってみた。何度も何度もやってみた。
でも、駄目だった。
何も変わらない。変われない。
あなたに、会えない。
それでも日々は過ぎていく。
電源をつければ、テレビの向こうのあなたは変わらずそこにいる。
それは救いにはならなかった。
覚えてしまったセリフを機械的にしゃべる。
あなたが、でもあなたじゃなく。
私に向かって、でも私にじゃなく。
「呂布・・・」
あなたは今どうしているだろう。
もう私のことなんて忘れてしまっただろうか。
薄情者だからそうかも。
「会いたい」
会いたい。会いたい。会いたい。
ただあなたに。
コントローラーを握りしめて、また泣いた。
さわさわ。さわさわ。
夢・・・?
瞼を開けると、どこかの草原だった。
少し前に立つのは、男性だ。こちらに背を向けている。
空の色なんて知らない。夕暮れの赤さが違うことにはすぐ気付いた。
その姿に、魂が震えた。
後ろからだって誰だかわかってしまう私は重傷だ。
「・・・・なに、してるの?」
「・・・・・っ・・・・」
かけた声は力なんか込められなくて、ちっさくて頼りなかった。それでもちゃんと届いたみたいで、ぴくりとその肩が動いた。
でも揺れただけで、ふり返ってはくれなかった。
「・・・ただの散歩だ」
前を見つめたまま、つれない言葉が返ってきたのに、画面越しじゃないその声に涙がこみ上げてくる。
何度も思い描いた光景は、夢の中でもくり返したやり取りと酷似していた。
夢なら、覚めてほしくなかった。
「嘘。私を探していたんでしょ?」
「うぬぼれるな」
「素直じゃ、ないわね」
ちゃんと私の問いに答えてくれる。
でもふりかえってくれないことが悲しい。
あぁ、もう!!
うれしくて悲しくて、涙で見えなくなりそう。
瞬きすら怖くて、ただその背中を睨みつけていると、ようやく彼がこちらへふりかえった。
ふりかえった呂布は、あの日のあの時のまま。
夕暮れの陰になってもはっきりわかる。
悔しい。
泣いてないじゃない。
「帰っちゃうわよ」
私はこんなに会いたかったのに、なんであなたはそんなに平気そうなのよ。
私なんか今すぐ抱きつきたいのに。
すごく、すごく会いたかったのに。
「いいの?」
「許さん」
そう言いながら広げられた腕。
私のために、私だけのために、与えられた場所。
言葉もなく飛び込んだ。
涙が止まらなかった。流れ落ちた涙が想いと一緒に言葉にならず染み込んでいく。
その温かさがうれしかった。
「始めから素直になればいいのよ」
「うるさい」
「もう離せないでしょ?」
「あぁ」
ぎゅっと抱きしめてくれるその温かさがうれしくて、幸せだった。
大好き。
もうこの手を離さない。
呂布側が結構早くまとまったのでヒロイン側も書いてみました。
いくらあらすじがまとまっているとはいえ、3時間ほどで出来たのは快挙。やっぱりのってる時は違うなぁ。
2020/12/07
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