運動着から着替えたあと、二人で学校を抜け出して。
でももうこんな時間だからどこかに行くということはできない。
明日だって普通に授業があるし、渋沢だって部活があるはず。
なにも変わらない。けど、変わっている。確実に。
「ねぇ、渋沢。あの言葉、覚えてる?」
なんの説明もしてないし、言葉足らずだったのに渋沢はすぐにわかってくれたみたいだった。
「あぁ、もちろん。『恋愛は‥』ってやつだろう?」
「そう、よくわかったね。しかも覚えてたんだ?」
「が覚えてろって言ったんじゃないか」
「いや、そうだけどさ」
でもあんな小さなやりとりを本当に覚えてるなんて。私だって今の今まで忘れてたのに。
「それで、答えは出たのか?」
「やっぱりその通りだった。悔しいな。自覚があるあたり、救いようがないわ」
「今ならまだ間に合うぞ」
「とっくに手遅れよ。それに私、かまわないし。渋沢は?」
「俺もかまわないよ。となら」
微笑みながら告げられて、堪えきれなくなった笑いがこぼれた。
クスクスクスと小さな笑い声が重なる。
二人だけの秘密の意思疎通。
「行こうか」
「うん」
差し出された手に手を重ねた。
温かくて大きなその手が、まるで渋沢の心みたいだと思った。
小説の中だけの話だと思ってた陳腐な言葉の羅列。
読んでいて吹き出してしまうような台詞も今ならわかる。
知ってた?どんなに成績が良くても意味がないってこと。
どうして?だって恋愛は人を愚かにしてしまうから。
でもかまわないの。彼がかまわないと言ってくれたから。
周りから笑われても、どこまでも酔いしれている。
それがきっと、知ってる人だけの恋愛理論。
ついに終わりました。長々とお付き合いいただきありがとうございました。
2002/11/16
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