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「恋文が欲しい」
たしかに、あなたはそう言っていた。
「様」
遠慮がちなノックが部屋に響いた。開けてみると、張遼殿の文官をしているだった。
「様、今、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうしたのです、そのような表情をして」
神妙な顔で入ってきたをみて心配になった。
恋仲である張遼殿に仕えている。年が近いこともあり、文官であるとも親しくさせてもらっている。
何か、悩みがあるのだろうか。私で力になれることだろうか。
「申し訳ございません。差しでがましいとは思ったのですが、これをお届けにあがりました」
「これは?張遼殿から?」
「はい」
から差し出された書簡を受け取った。
張遼殿が私に文を下さるとは珍しい。というか、初めてかもしれない。
いったい、何が書いてあるのだろう。
胸の高鳴りを感じつつ、開いてみるとそこにあったのは白紙。
宛名は私の名が書かれ、末尾は張遼殿の名があるが、それだけだ。
何度見返してみても、そこには何も書かれていない。
もしや悪戯かと思ったが、あの方はそんなことをする御仁ではないし。
と、すると、この文の意図はどういうことだろう?
「、今、張遼殿は在室ですか?」
に、張遼殿はそろそろ自室に戻ってきている頃だと聞き、張遼殿の自室を目指した。
家探しでもしているのか、部屋の中から物音が聞こえてくる。
中に入ると、こちらに背を向けたまま、張遼殿は何かを探している最中だった。
「張遼殿」
「、いかがした?」
「張遼殿、こちらをありがとうございます」
「それは・・・!」
私の手の中の文を見て、顔を赤くすると、ぎゅっと拳を握りしめて、がっくりと項垂れてしまった。
「・・・・・申し訳ござらぬ」
「怒っているわけではないのです。教えて頂けますか?」
赤い顔のままジーっと見つめられ見つめ返した。
やがて渋々と言った空気を出しつつ、顔を伏せてしまった。
「先日、と甄姫殿が中庭で話しているのを聞いてしまったのだ」
「先日、中庭で?」
たしかに甄姫殿と中庭で話していた覚えはある。
何を話していただろう。
女同士の話だったので、巷の噂話から街の流行り物などいろいろ話題に上がった気がする。
「申し訳ありません。いろいろお話をしていたので、どのお話でしょうか?」
「・・・甄姫殿が・・・」
「甄姫殿が?」
「その、曹丕殿から恋文をもらうと。そのような文をそなたも欲しいと」
あ、思い出した。
たしかに。
甄姫殿が夫婦になってからも曹丕殿から恋文を頂くのだとお聞きした。私は仲睦まじく羨ましいと言った。
言葉にして頂くのも嬉しいが、文も欲しいですねと。
たしかに、言った。
「それで、そなたへ文を書こうと思ったのだが、そなたへの想いをいざ書き記そうとすると、なぜかうまくいかぬ」
「この紙一枚に収めるには私の気持ちは大きすぎるらしい」
「・・・張遼殿・・・」
申し訳なかった。
この方からの想いはわかっているのに、形ばかり強請ってしまった自分が情けなかった。
それと同時に嬉しさと愛しさがあふれてきて堪らなくて。
想いの詰まった手の中の恋文を握りしめて、愛する人にぎゅっと抱きついた。
「ありがとうございます。この文、大切に致します」
「まだ何も書けておらぬ」
「いいえ。先ほどまで見えなかった文字も今の私には見えておりますから」
ありがとう、愛しき人。
50のお題。三上先輩夢『わずか紙切れ一枚』から、派生。
元ネタはまだ完成してませんが。
無双夢にするのは無謀だったか?
女子トークを聞いて、うんうん唸りながらラブレター書こうとする張遼って可愛くないですか(笑)
こんな夢を書きましたが、どんなこともサラッとスマートに出来てしまうのが張遼だと思ってます!
2019/9/21
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