「いい加減早く決めろよ」 「待ってよ、今考えてんだから〜・・・」 銀次は箪笥を引っ掻き回して、ほとんど全ての冬服を床いっぱいに並べていた。 ない脳みそで本気で考えているのだろう。 胡座をかいて手に顎を乗せ、眉間には皺が寄っている。 着せ替え人形のように何度も試着させられて、いい加減疲れてソファに横になった。 テーブルに置かれた百均で買った小さな灰皿には、溢れんばかりに吸殻が積もっていた。 「・・・よし!決まった!やっぱこれ!」 くるりと顔だけ銀次の方に向ける。 「・・・最初の服じゃねーかよ!」 「ゴメンゴメン、じゃこれ着て来てね!あとさっき言ったことも忘れないでね!?」 「・・・へいへい」 銀次は満足気にまっと笑うと、散らばった衣服から何から全てを楽しげに片付け始めた。 不思議と悪い気はしないのは、やはり年に一度の祭日に胸が騒いでいるからなのかもしれない。 蛮はソファから立ち上がって、電話の横にある閑静なカレンダーに赤い印を付けた。 今日は12月22日。 あと3日で・・・クリスマス。 Merry Christmas 二人で過ごす、もう4度目のクリスマス。 互いに欲しいプレゼントもいい加減マンネリ化したので、今年は互いに注文した格好をすることにした。 紛れもない、銀次の提案だった。 一緒にいても服装に関しては互いにポリシーを変えない二人だったから、この企画は大いにやりがいがある。 恋人を自分好みに仕立てあげる といったところか。 そして24日。 銀次は朝から用事があると言って出かけ、4時に外で待ち合わせをすることになった。 3時頃、蛮はクローゼットに丁寧にかけられた衣服に着替え、洗面台の前で何度も念入りにチェックした。 見飽きた自分の面構えも、やけに今日は綺麗に映るのに笑ってしまった。 割と近いのだが、電車の混み具合を考慮して早めに出かけることにした。 裏新宿の少し外れた処での待ち合わせ。さすがに今日はどこも混んでいる。 「ふわぁああぁ・・・」 あくびでダークの目を潤ませながら、さも退屈そうに煙草に火を付けた。 ちゃんと戸締まりして来たっけか? 注文で頭がいっぱいだったからな・・・でも盗むモンなんて何もねぇし、平気か。 風がびゅうっと吹き荒れて、蛮は思わずトレンチコートのポケットに手を突っ込んだ。 銀次の言った通りの格好。 髪は下ろし、以前銀次が買ってやったニットのセーターにチェック柄のズボン。 邪眼防止のサングラスまで外して来た。 さすがにこんなに青い目を曝け出すのは恥ずかしいので、以前購入したグレーのコンタクトレンズを装着することにした。 文句つけられそうだけど、これっばかりは勘弁だぁな。 町中はカップルで溢れている。 時折女同士の連中が、ちらちらとこちらを見るのに蛮はしかめっ面をした。 今日で何度目だ と思いつつ上から下まで素早く目を通す。 さっきより乳あっけどさすがにな・・・ 目を逸らしたもののやっぱり声を掛けられて、面倒な蛮は冷たく突き返してやった。 イルミネーションに飾られた街も、どこか忙しなく寂し気に目に映る。 一人身だと、クリスマス程嫌な行事はないんだろうなぁ・・・なんてことを考えながら。 退屈に吸っていたマルボロも底を尽きた。 早く来いよ、銀次のアホ あれ・・・? あれ、銀次か? 向かいの通りをこっちに向かって走ってくる青年。 でもスーツだし、髪の色違うし・・・まさかな。 と思いきや 「蛮ちゃあん!お待たせっ!!」 遅れてゴメンね!と目の前でパーンッと両手を合わせた。 口はぽかんと開いたまま声も出ない。 金髪とは違うアッシュブラウンに 美容院でも行って来たかのように揃えられた頭。 手触りのいいカシミヤのダークグレーコートにスーツ・・・・靴はローファー。 でも幼さ残る顔つきは、どこからどう見たってあの銀次。 「ぎ、銀次・・・??」 「あははっ!びっくりした!?」 「ヘヴンさんに頼んでさ、いろいろやってもらったらこんなことになっちゃって!」 「・・・蛮ちゃーん、取り合えずキメて来いって言ってたじゃん!」 無反応だと思ったのか、眉を顰めて声を荒げた。 「・・・蛮ちゃん?」 「あ?ああ」 二人はようやく通りを歩き出した。 「蛮ちゃん、こっち向いてよ」 振り向けば、やっぱり別人のような銀次が。 目線が髪の先からつま先までを隈なく探っている。 そして満足気ににまっと笑った。 「ふふーんv やっぱ蛮ちゃん髪下ろしてた方がいいよ!絶対」 「・・・そうかよ」 「可愛いんだもん、だって!」 可愛いの言葉に眉間に皺を寄せたが、それ以上のことはしなかった。 横目に見やれば、あまりに似つかわしくなさすぎなのか、スーツが妙に銀次の髪に映えて。 柄にもなく 顔が火照っていくのを感じた。 「何?なんかついてる?」 気付かれて蛮はほんの少し狼狽した。 「いや・・・別に」 「あ〜〜もしかして・・・やっぱり変だった?これ」 頼りなげに残念そうな顔をする。 ・・・むしろ逆 「新入社員ってカンジ」 「・・・それって褒め言葉?」 蛮はニヤニヤしながら首を傾げた。 「あ!蛮ちゃん・・・」 「何」 「もっかいこっち良く見て」 くりっとした瞳でその容姿でまじまじと見つめられて、思わず目線を逸らした。 「目の色違くない?どうしたの?」 蛮はちっと舌を鳴らした。 「・・・モロに出すと恥ずかしいだろ?こんなん」 「カラーコンタクト?」 「ああ」 銀次ははぁっと脱力した。 「・・・もったいなぁ〜いっ!!」 「前買って残ってたやつだよ!金遣ってねっつーの」 「そうじゃなくって!せっかくキレーな目なのにさぁ・・・」 銀次はコンタクトを外すことを持ち掛けようとしたが、それだけは止めておいた。 誰もが魅入るその瞳を彼自身どんなに忌み嫌っているか・・・よく知っていたから。 「まあいいや!今日は焼肉だよねっ!焼肉!」 「そうだな!美味いもんばーっと食って、遊ぶか!」 楽しいイブの夜はあっという間に過ぎていって。 時刻も11時を過ぎた頃。 銀次の言っていた“秘密の場所”に連れて来られた。 ・・・どうしても蛮ちゃんを連れて行きたいところがあるんだ。 去年だったら、こんな処に来るだなんて考えもしなかっただろう。 来れるようになったのは、銀次が完全にここの人間で無くなった証拠。 忌まわしくとも 清らかで美しい過去と離別できた証拠 裏新宿・・・無限城 「大丈夫、大丈夫。ここ裏口なんだから・・・さ、来て」 ジャンクキッズの目を軽くすり抜けて、がらくただらけの場所に案内された。 階段状に積み重なったそれを、白い息を吐きながら足元を確かめつつ登っていく。 銀次が先導し、しっかりと蛮の手を握ってくれた。 8階辺りまで来ただろう処で、二人は足場の良いコンクリートへ踊り出た。 「ここからだとね・・・裏新宿の街全部を見渡せるんだ」 「・・・!!」 暗闇にきらめく街は まるで別世界だった。 クリスマスのイルミネーションが街の灯に映えて、どこもかしこもきらきらと七色に光に散りばめられて。 こんな場所があっただなんて。 蛮は思わず深い溜息を漏らした。 「いつ見つけたんだよ、こんなとこ」 「もう何年も前だよ・・・すごい綺麗だなーって思って、いつか好きな人が出来たらここに連れてこようって思ったんだ」 ・・・ぷっ 「あーっ!今笑ったでしょ!」 「・・・恥ずかしいヤツ」 「いいでしょ!綺麗なんだから」 「そうだな・・・ってことは、俺が最初なのか?」 「うん!もちろんv」 無限城に来て体内に電気がたまったのだろう。銀次の髪が半ば上がってきていた。 アッシュブラウンにわずかに地毛のブロンドが混じって 暗い色の高価な服があどけない表情とはまるで正反対で どこか昔の彼を思い出させる 暗闇の奈落の底 爛々と光導く皇帝の姿を 全然違うのに・・・なぜか 「銀次・・・」 「なに?」 「お前、自分を鏡で見たか?」 「見てないけど・・・なんで?そんな変なの?」 「違ぇよ・・・」 ふわっと銀次の背に全身を預けた。 回された両腕に銀次の手が重なる。 「惚れ直した?」 「・・・調子に乗んなよ」 口元で銀次がくすっと笑った。 夜景を背に振り向き、髪を撫でながらそっとキスを交わした。 蛮の両腕が銀次の首元に回る。 銀次は柔らかいニットの上から、蛮の胸板を探っていた。 奥にある無人の部屋へと入った。 用意された閑静なベッドの上に二人横になり、激しく口唇を弄り合う。 キスを絶やさぬまま、蛮は銀次のコートからネクタイから全て脱がそうと手を荒げた。 「スーツ、汚さないようにしなきゃ」 蛮はそそくさとズボンとセーターを脱ぎ捨てていた。 「んなもん裸になりゃいいだろ・・・来いよ」 銀次の背中が熱く波打った。 監視カメラは見当たらないが、今更どうやったって止められようがない。 ヤッコさん、あんま見てくれんなよ・・・ 蛮は銀次の背中に両腕を回した。 「どうしました?マクベス」 「いや・・・思いがけない客人を目にしてね。」 「?」 「どうやら、彼も里帰りに来ているらしいよ」 「・・・出向くのですか?」 「いや・・・今は行かない方がいいだろう。ねぇ雨流?」 パソコンの画面を目の前にして 顔を真っ赤にさせた雨流は何の返事も出来なかった。 ホント、素敵〜vvって言葉しか出てこなくて、こういう時ほど言葉の少ない自分が嫌になるときはありません まぁ、私がどうこう言うまでもなくこの溢れる素敵さ、皆さんはわかりますよね! 澪羅サマ、本当にご馳走様でしたvv(^^) 2002/12/31 up |