殆ど日課と化していると言っても過言ではないその部屋への訪問にはなんの躊躇いもなかった。 だが、今日に限って藤代は扉の前で立ち止まる。 「なんか、なんか・・・・変な予感。」 彼は野生の感と言うか、何と言うか・・・・とにかく鋭かった。事、この部屋の住人達に関しては。 ・・・トントン。 ノックの後、すぐに返事はなかった。 「やっぱり変な予感!」 藤代は思いきってその扉を開け放った。 その瞬間、酒気を帯びた空気が立ちこめる。 「うわ!?なに?これぇー!!!?」 すぐに目に飛び込んできたのは、テーブルの上に所狭しと並ぶ空き缶と空き瓶。 そして、ベッドサイドで布団を覗き込む三上の後ろ姿。 サワーの缶を片手に何やら楽しそうだ。 「情けねーなー、すぐ潰れやがって。」 どうやらベッドの中では渋沢が酔い潰れているらしい。彼の真っ赤なほっぺたを抓ったり引っ張ったりして三上が遊んでいる。 「み、三上先輩ー!!」 藤代は慌てて、まだ半分くらい残っている缶を三上の手から引ったくった。 「なにやってるんすか!もう!!」 折角の楽しい所を邪魔された三上は、すぐさま不機嫌な面で後輩を睨んだ。 「何って、見れば分かるだろーが。邪魔するな。」 三上は普段と比べれば随分と子供じみた行動・・・つまりは奪われた缶を取り返そうと食ってかかってきた。 「それりゃぁ〜・・・見れば分かりますけどぉ〜。」 ひょいとそれをかわしながら藤代は小首を傾げる。 (酔ってるのかな?珍しい・・・・) 別に三上が酒を飲んでいるのを見るのは初めてではない。 彼は酒には強い方らしくて、コンビニで買ってくるようなアルコールの類で酔っぱらっているという姿を見た事はなかった。 けれど、今日の量は尋常ではない。 「返せよ。まだ飲むんだ。」 まるで玩具を取られた子供のようだ。 流石にザルとまではいかないらしい。絶対酒が回っていると藤代は思った。 取りあえず三上でも酔う事が解った彼はもう一つの気がかりを口にする。 「どうして渋沢先輩まで潰れてるんですか?」 「ん〜・・・五月蠅いから無理矢理飲ませた。そしたらすぐ潰れちゃった。つまんないの。」 どうやら、酒盛りを止めさせようとした渋沢を強引に潰したようだ。藤代は大きな溜息を吐いた。 「つまらない・・・・まだ飲む。」 三上はまだ諦めてはくれないようで、藤代が持つ缶を取り返そうとする。 だから藤代はその中身を一気に煽った。無くなれば諦めるだろう思ったから。 そして周囲を見渡す限りでは、これが最後の缶だったようだ。 「・・・泥棒っ。」 すると三上は眉をつり上げて身を乗り出してきた。 藤代の喉を流れてしまったアルコールを取り戻したいのか、彼の唇に噛み付くようなキスをする。 「ちょっ・・・と!?」 そのまま床に押し倒された藤代は驚きながらもその口づけには応じたが、唇が離れるとすぐに三上の頬をペチンと軽く叩いた。 「三上先輩っ、酒盛りはもうお終いだってば。」 そう言って身体を起こそうとするのだが、至近距離から少し離れた位置で三上がジッと見つめてくるものだから、ドクンと心臓が大きく跳ね上がってしまった。 「よく見ると・・・男前。」 微かに赤みの差した頬と潤んだ瞳がそんな言葉を発する。 「よ、よく見なくたって男前でしょ?俺は。」 素面なら絶対口にしないような台詞に動揺を隠せずに、けれど当たり前だという風に藤代は強がってみせた。 「しーらない。」 だが、それまでずっと藤代を見つめていた三上は急にふいっと顔を背けて、身体を離してしまった。 ・・・この人、ホントに酔ってるのか? 上半身を起こした藤代はすぐ側で大きな欠伸をしている三上を横目に、急に不安になってきてしまった。何だか振り回されて遊ばれている感が否めない。 でも演技にしては蠱惑的な表情が随分と生々しく映る。 それは藤代の若い雄に少なからずとも刺激を与えてしまうものだった。 「ねえ・・・三上先輩。」 「ふわぁ〜・・・・眠い。」 藤代は三上に声を掛けたが、返事をしているつもりなのか何なのか、三上はまた大きな欠伸をした。 「三上先輩ってば!」 腕を掴むと、三上はようやく藤代の方に目を向けた。 大きな欠伸で涙ぐんだ瞳はしばらくの間藤代の姿を映していたが、2・3度目を擦った後でまた顔を背けてしまう。そしてもう眠るつもりなのか、渋沢が潰れているベッドによじ登り始めた。 「あ〜、三上先輩!そこ渋沢先輩が寝てるってば!」 今まで動作が緩慢だった三上が急に動き出した事で、藤代は慌てて彼を背中から抱き締めた。 「寝るなら上・・・って、無理か。」 別に当人がよければ定員オーバーで寝てくれても構わないのだろうが、藤代には何となくそれが嫌だった。だからギュッと抱き締める腕に力を込める。 「・・・・・・・たまには俺の方にも懐いてよ。」 眠気のせいかポカポカと温かい三上の身体を抱き締めるなんて凄く久しぶりな気がする。 後ろから首筋に唇を押し付けても、三上は少し首を動かしただけで嫌がる素振りを見せなかった。 (・・・やっぱり、ちゃんと酔ってるのかも。) 普段だったら背後からこんな風にされて、黙って身体を預けているような事はしない。 三上は自分が主導権を握らなければ気が済まない性格のようで、今みたいな状況だったら藤代に肘鉄を食らわせる事確実である。 「寝るなら俺と一緒に寝よ?」 耳元でそっと囁いて、衣服の裾から素肌に手を滑り込ませる。 「やぁーだ!」 藤代の言葉を理解しているのか、三上はそんな言葉と同時に彼の頭をバシバシと叩いた。 「い、痛いってば!全く・・・酔ってまで俺を拒否するの?」 いつもいつも、藤代の方から誘った時には快い返事を返さない。結果的にはズルズルと情交になだれ込むけれど、好き勝手はさせない。 それをまさか酔ってる時にまでやられるなんて。 藤代は少し顔を歪めて三上を床に組み伏した。 不意に受けた軽い衝撃で三上はキョトンとして目をぱちくりとさせる。 「・・・・痛い。バカ。」 だがすぐに唇を尖らせて文句を言った。 「だって冷たいんだもん。酔っててもいいから、蹴っ飛ばさないでよ?」 その唇に吸い寄せられるかのように、藤代は口付けた。 三上のキスに応じるばかりの不満をぶつけるみたいに、執拗に舌を絡ませる。 それを受けた三上の身体は抗う素振りを見せなかった。 眠たげな双眸に扇情的な影が見え隠れして、藤代の姿をぼんやりと見つめる。 「・・・・・・・・しーらない。」 この部屋が二人きりではない事くらい承知している。 鍵を掛けているわけでもなし、いつ誰が尋ねてくるかもしれない事くらい分かっている。 それでも藤代は、この行為を中断出来なかった。 それは、酔っているらしい三上がいつもとは随分違って映るせい。 組み伏せても怒ったりしなかったから。 キスをして服に手を掛けても蹴飛ばされたりしなかったから。 たまには自分の好きなように三上を攻め立ててみたい。 上から見下ろされるんじゃなくて、心身とも見下ろしてみたい。 こんなチャンス滅多にないから・・・藤代はそう思った。 特別企画のSSです。リクエストはお酒によって色っぽくなる受け(藤三or三渋)でした。 ケイカ様、リクエストありがとうございました! いつも渋受け書いてるので、たまにはと思って藤三にしてみました。 どうやらうちの三上は上が好きらしいです・・・・受けのくせに女王様なんで(笑) 何か色っぽさに欠けるかな〜?いつもよりかは可愛い気がするけど。 このまま続けて裏仕様でも全然OKだったんですが・・・・まぁ、この辺で(^^;)
御礼の言葉
新参者だったにも拘らず飛びついてしまいました。 ありがとうございます。三上センパイかわいいっす〜vv 三上センパイ、上ですか??さすが森の女王サマですね! 欠けるどころか十分色っぽいですよ!おまけにかわいい/// 転載も快くOKしてくださって重ねてお礼を申し上げますvv 2002/11/22 UP |