「起きたか」
「馬超・・?あれ?」
木陰から差す日の高さはずいぶん高くて、もしかしなくても結構寝てしまったのかもしれないとわかった。
「ごめん、私、結構寝てたでしょ?」
ずいぶんスッキリしている。
「なに?」
「うん、いつものだな」
シャラリ。
耳元できれいな音が聞こえた。触れてみると硬い感触が返ってくる。
これは・・・
「耳飾り?」
「来るときに買っておいた。お前にやる」
あのいなくなったときにわざわざ買ってきてくれたらしい。 きれいな音。
「ありがとう」
「礼はいい」
「え?」
にっこりと音がつきそうなその笑みが企んでいるというか、趙雲並みに黒く見えるのは気のせいだろうか。
「念のために聞くけど、ほかに何もしてないのよね?」
「・・・・あぁ、してないぞ」
「その間はなによ?ちょっと、なにしたの?」
「なにもしてないって言ってるだろ?信用しろよ。俺が寝ている女を襲うような卑怯者に見えるか?」
見つめるその瞳に揺らぎも後ろめたさも見えない。
「まぁ、そうよね。あんたは約束は違えないタイプよね」
でも、私の第六感が訴えてるというか、なにかありそうな予感みたいなものがしてるんだけど。
なんて考えていたら頬に手を添えられた。今度は何かと思って馬超のほうを向くと、その顔が間近にあった。
濡れた感触を感じて、額に唇が押しつけられたのだとわかる。
「なにもしてないが、これからする」
「なっ・・・」
「やるなら正面からやるのが男らしさだろう」
「ば、馬鹿!許可を取るのが男らしさよ!」
「許可なんてくれないだろ?」
「わかってんならやるんじゃないわよ!だいたい、そういうことを軽々しくやるんじゃないの!」
この女たらしめ。
抱きついたり、こんなふうに触れたり、なんでアンタはそう距離が近いのよ!
「軽々しくなんてないさ」
「なに言ってんのよ。軽々しいでしょ。こんなことしたり部屋まで起こしに来いって頼んだりするしさ。異性に頼むことではないわよ」
「お前、俺がこんなにわかりやすく態度に表してるというのに、わからないのか?」
「なにが?」
「俺が寝室へ入る許可を出しているのはお前だけだぞ?」
「・・・は?」
「好きな女だけだ、当然だろ」
当然だろって、私?
「抱きつくのもにしかやらんからな。他の女相手なんか見たことないだろ?」
「いや、ないけどさ。私だけ?え?え?急になにを言ってんのよ」
好きな女って、馬超が私をってこと?
「だめか?」
「いやだって、アンタは誰でも選びたい放題でしょ。選り取り見取りなんじゃないの?」
今日、町中を歩いてるときだって何人か声をかけられたし。まぁ、女性だけじゃなくて男性や子どもにも声はかけられたけど。
本当に人に慕われるのよ、馬超は。
はっきりした目元。通った鼻筋。もちろん見目だけじゃなくその人柄も慕われているのは知ってる。いいとこの坊ちゃんだけあって所作もきれいだし。
なのに平々凡々な私を選ぶって、ありえないわ。
「まぁ、選び放題なのは否定しないが。俺はお前がいいんだ」
「本当に?」
「信じないのか?」
その声色に何かを感じ取って、あわてて目をそらす。
なんだか引き返せないというか、何かが変わってしまいそうな気がしたから。
、俺を見ろ」
「駄目」
「見ろって」
「駄目駄目駄目駄目」
だって今、馬超を見たらヤバイ気がする。
距離をとろうと立ち上がろうとしたら、腕を捕まれて立ち上がれなかった。
正面からその視線を受け止めることになった。
なんだろう。
馬超なのに、見慣れた顔なのに、なんか緊張してしまう。周りの音が遠くなるのを感じた。
が好きだ」
「・・・・っ・・・」
ヤバイ。ヤバイ!
なにときめいてんのよ、私!
アンタと私はそんなんじゃない、でしょ?
そんなことは言えなかった。上がってくる顔の熱と躍りあがった心音に消されてしまう。
そのまま視線をそらさずに距離をつめてくる馬超の肩をなんとか押し返す。
口づけしようとしてるとわかったから。
「だ、駄目だって」
「なぜだ?」
「こういうことは好いた相手とするものでしょ」
「俺はお前が好きだって言っただろ?」
「私は言ってないわ」
「じゃあ、俺が嫌いか?」
「嫌いじゃないわよ」
「じゃあ、好きか?」
その聞き方はずるい、と思う。
好きか嫌いかで聞かれれば好きに決まってる。好きじゃなきゃ共になどいない。
でも、それを今ここで伝えるのが恥ずかしかった。
何故だろう。
「好き、だけど、馬超がいう好きとは違うわよ」
頬の上を馬超の手が滑っていく。
温かい手に揺らされてシャランときれいな音が響く。
「俺がこうして触れるのは嫌ということか?」
「嫌というか、その・・・嫌とは違うの。困るというか・・・そう、困るわ」
「困る、か。お前、やっと俺を男としてみたな?」
伏せていた顔を馬超に促されてあげた。
馬超の視線の色が変わったのがわかった。
私を見つめるその瞳は、見たことがないものだった。
が好きだ。お前だけが欲しい」
「・・・・っ・・・」
馬超・・・
瞳に吸い込まれるって、きっと今の私の状態を言うんだろう。
その視線から逃げられない。
近づいてくる馬超の顔に、そのまま従って瞳を伏せたくなる。
「駄目」
つぶやいた言葉で馬超が止まった。
馬超の気持ちがうれしかった。
触れてもいいと思っている自分がいることには気づいてる。
でもこのまま触れるのは馬超に対して失礼だと思った。
さっきも言ったとおり。私の思いは馬超の想いとは違うから。
「馬超の気持ちがわかった。だから駄目。私にも馬超の思いは大事なものよ。流されるみたいなことしたくない。考えるから時間を頂戴」
言いつつ、答えはそう遠くないうちに出るだろうってわかった。
でも、まだでない。・・・今はまだ。
「・・・仕方ないな」
呟いたその声はいつもと同じ声色。でも表情は全然違った。
苦しさを無理やり抑えてるのがわかるその表情。
馬超は切なげに顔を歪めて、その苦しさを表すようにきつく抱きしめられた。



「少しだけ猶予をやろう。早く、俺を好きになれ」




















ってことで押せ押せ馬超。危うく空気に負けちゃいそうだった、危ない危ない。
・・・・書いた後に気づいた。この二人だけ特別扱いってわけにはいかない、よな(ぶるぶる)軍師様の攻め攻めなんて私には無謀だ。

2019/11/13加筆



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